昨年の夏に横浜港の海フライフィッシングに出会って、
とにかく熱く走りっぱなしで、
テンションは猛烈な右型上がりの軌道を描いていた。
でも7月24日を境に釣りのことを考える余裕もなく、
勿論海にも行っていない。
不思議なもので、
人の意識の対象は、
ある事に占拠されてしまうと、
占拠していたある事が居なくなっても、
元々あった対象がすんなりと戻ってくることは無く
ぽっかりと穴が空いてしまう。
1年間、僕の頭の中には「海フライフィッシング」が占めていた。
良いことなのか悪いことなのか、
結果を求めている訳ではないから
正解は分からないけど、
仕事やビジネスよりも大切なこととして、
「海フライフィッシング」が最重要事項となって、
僕の頭は一杯だった。
こんなにも夢中になったことは
若い頃の恋愛からは全く無い。
フライフィッシングショップの遠藤店長に
「僕はね~、凄く毎日が楽しいだよ。
そう、生活が豊かになった。
毎日、毎日、海フライフィッシングのことを考え、
タイニング(疑似作り)していることが、
無常の喜びなんだ」
と語っていた。
穴か空く。
不安だったことが少し解消されて、
占拠していた場所を離れたのだけど、
僕の海フライフィッシングは戻って来ない。
時々、「もう釣り止めようかな~」と思う時がある。
何とか、あの時の満足感、いや期待感、幸福感を取り戻す為には
「絶対に大物を釣る」しかないと思い、
この前コノシロで狙ったのだが、壊滅的なダメージが残り、
喪失感は無くなったままで、更に穴が広くなった感じがする。
仲間だ!
釣りの仲間に会えば、
僕の心は満たされるかも知れない
という他人任せの解決方法を選択した俺は、
なごみに行ってみた。
店長が「変」なもの作っている。
疑似餌を作る為の台=タイニングに向かって、
鼠色のシンセティック(科学繊維)を捏ね(こね)ている。
大きさは、そう「鼠」位ある。
二十日鼠ではなく、モルモット位の大きな鼠
昔、暴走族やヤンキー達が、
ウサギかなんかのシッポをキーホルダーに使っていたみたいな
あんな大きさの塊・・・
ねえ、店長~、何やってるの?
と尋ねてみると・・・・
「コノシロ、
例の大物狙いのコノシロ作っている。
今月号のFlyfisherにコノシロの実物大の写真が出ていてさ~
それ見たら絶対に実物大のコノシロのフライが欲しくなって、
今、巻いている」
でもさ~、それにしてもでっかくない?
そんなの俺には投げれない。
「うん、でかい。
でも、この大きさを作って見たいという
不思議な衝動に駆られて
もう3時間も巻いている」
フライフィッシングの店は、要するに釣り道具屋な訳で、
週末にはお客が時々来る。
(昔が時々しか来なかったけど、
最近、店が有名になったのか、結構客がいる)
普通、客のいないときは、
ホームページに情報を流したり、
コマーシャルフライと呼ばれる売り物の疑似餌(フライ)を巻いて、
商品を作ったりしている。
この店長、願望が先行するタイプだから、
本を見て、なんかスイッチが入ると、
他の事が目に入らないから、
客が居ようと、俺が居ようと(まあ一応俺も客な訳で・・・)
とにかく願望実現を優先している。
いつ行くの?
「月、火曜日が店の休みだけど、
月曜日は娘との用事があるから、
火曜日かな~」
「うん?
宮坂さん、一緒に行こうよ。
実は、宮坂さんを誘うかと思っていたんだよ。
行こう、行こう」
と言いながら、
もうシークロに電話し始めている・・・・